風のブックマーク2004
「思想」編

 

筒井賢治『グノーシス』


2004.10.20

■筒井賢治『グノーシス/古代キリスト教の<異端思想>』
 (講談社選書メチエ313 2004年10月10日発行)
 
以前はグノーシスといっても、それを調べる日本語の文献が少なく、
具体的なところがわかりにくかった。
荒井献によるトマス福音書の紹介にどきどきしたり、
ナグ・ハマディ文書の存在に興味をひかれたり、
ヘルメス文書を読んでわかったようなわからないような感じになったり、
荒井献『原始キリスト教とグノーシス主義』や
柴田有『グノーシスと古代宇宙論』などや
はたまた秋山さと子さんの訳した、分厚いハンス・ヨナスの
『グノーシスの宗教』を拾い読みしながら、という感じだったりした。
 
しかしとくにここ数年でグノーシスに関するオリジナルの文献や論文が
たてつづけに翻訳されたりもするようになって、
情報的にかなり開かれてきた感じもしていたところ、
そしてようやくこうして、日本の研究者による
かなり読みやすい入門書が出るまでになった。
 
とはいっても、著者がことわっているように、
本書は、グノーシス全般に関する紹介ではなく、
主に2世紀のキリスト教グノーシスに絞った内容となっている。
しかしこれを読めばグノーシスについて
だいたいのイメージはつかめるのではないかと思う。
 
ところで、シュタイナーは『人智学指導原則』(水声社)において
人智学とグノーシスの関係についてこう述べている。
 
	161 人智学はグノーシスの改新ではありえない。グノーシスは感受魂の発展に
	関わっているからである。人智学はミカエルの活動の光のなかで、意識魂から
	新たな仕方による世界の理解、キリストの理解を発展させねばならない。グノ
	ーシスはゴルゴタの秘跡当時、ゴルゴタの秘跡の意味をもっともよく人々に理
	解させることのできた、古代から保管されてきた認識の方法である。
 
古代から保管されてきた認識の方法としてのグノーシスについて
ある程度は概観を得ていたほうが、
「人智学はグノーシスの改新ではありえない」
というあたりのことも理解しやすくなるのではないだろうか。
 
グノーシスはキリスト教から異端とされたその中心にあるわけだけれど、
ある意味、人智学と関係のあるキリスト者共同体なども、
現代においては異端思想ということになるのかもしれない。
しかもおそらくはグノーシス的に受け取られやすいのだろうと思し、
実際にグノーシスとの違いがわからないということもあるのかもしれない。
 
従って、『人智学指導原則』において、
感受魂の発展に関わったグノーシスと
意識魂に関わっている人智学との違いについて
考察しておくことはとても重要なことだと思われる。
 
そのためにも、まずはグノーシスについて
とても読みやすく書かれている本書は格好の教材になりそうである。
 
 
 

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