風のブックマーク2004
「物語」編

 

松岡正剛監修『直伝!プランニング編集術』


2004.1.26

■松岡正剛監修
 ISIS編集学校 プランニング・メソッド研究会
 宮之原立久・山田仁・伊東雄三・倉田慎一・立岡茂・丸山玄
 『松岡正剛のISIS編集学校 直伝!プランニング編集術』
 (東洋経済新報社/2003.12.25発行)
 
とにかく役に立つ本である。
なんらかのプランニングに携わっている人なら一冊は常備しておきたい。
少なくともここに書かれてあることは、
「方法」として身につけておいて損はない。
しかも、ここにいわば「伝授」されている方法はとても具体的で、
よくある「発想法」やら「企画術」といった類のものに見られるような
参考になりそうだけれども結局あまり役に立たないものとは
一線を画しているだろう。
今ぼくはこれをテキストにしながら
自分の仕事上のプランニング力を磨いていこうと思っているところだし
スタッフにもテキストとして勧めていくつもりである。
 
思えば松岡正剛からはさまざまな影響を受けている。
最初はほとんどわけのわからないままに
「遊」をながめて(じっさいあまり当時は読めていなかった)
そのハイパーなエディトリアルに目をみはり、
そこに登場してくるさまざまな人物や言葉やコンセプトや
そんなさまざまの飛び交っていることだけでどきどきしていたものだ。
この「神秘学遊戯団」のなかにある「遊」も
その影響は少なからずあるはずである。
 
しかし、しかしである、問題はそこからはじまる。
知性のある種の現代的な形としてとらえるならば
松岡正剛はとても偉大な先駆者として位置づけられるが、
重要なのは、そのエディトリアルという発想では
とらえられないものが見えてくるかどうかなのではないか。
そのことに気づくことこそ重要だといえるのかもしれない。
 
松岡正剛は類い希な知性の人でもあるけれど、
よくよくさまざまな著書などを読み進めていくと
そこにとてもシンプルな情動があることが見えてくるのである。
 
そのことに気づいたというか、なぜこの人が・・・、
ということをはじめて思ったのは、
岩井寛の死に際しての松岡正剛のありようだった。
それは『生と死の境界線』(講談社)としてまとめられているが
そこには、松岡正剛が「死」を前にしてとらざるをえなかった
「ヒューマニズム」の当惑が如実にあらわされているように見える。
つまり、「死」を前にすると
たとえば今回のような『プランニング編集術』は
成立しえなくなるのである。
 
面白いことに、松岡正剛がノヴァーリスをとても重要視しているが
なぜ重要視しているのか、いくら読んでも見えてこない。
「千夜千冊」ではシュタイナーさえとりあげているのだが、
これまたまったくもって言葉にさえできていない。
これはどういうことなのだろうか。
松岡正剛は禅的なものをとても面白く表現したりもするものの、
いわば「神秘学」的なものに近づくととたんに
その「編集術」を適用・応用できなくなってしまうのである。
 
松岡正剛特有の文章を読み進めていくと
その発想は『プランニング編集術』というよりも
むしろまるで神秘主義的な様相さえ呈してくるところさえある。
そういう視点で見てみるとまた
それまでとは違った松岡正剛が見えてくるようにも思う。
 
しかし、だからといって『プランニング編集術』が
意味をもたないというのではなく、むしろその逆。
『プランニング編集術』によって可能になる
その射程を明確にできてはじめて
その射程には決して入らないもののことが
見えてくるということでもある。
そしてそれ故にこそ、ぼくにとって松岡正剛は
とても大きなガイドともなり続けているし、
これからもそうあり続けてほしいと願っている。
 
 

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