風のブックマーク2004
「思想」編

 

坂本龍一・天童荒太『少年とアフリカ』


2004.7.11

■坂本龍一・天童荒太
 『少年とアフリカ/音楽と物語、いのちと暴力をめぐる対話』
 (文春文庫/2004.4.10発行)
 
先日来、坂本龍一と天童荒太という二つの伏線があって
それがこの一冊の文庫本で交叉した。
ああ、この一冊にたどり着くために
先日来二つのある種の流れがつくられてきたのかもしれない
という実感があった。
すでに4月の初旬に出ていた文庫だったが見つけたのは昨日のこと。
グッドタイミングだといえる。
 
ここには3つの対話が収められているが、
最初のふたつは2000年6月28日と10月6日のもの。
天童荒太の『永遠の仔』のテレビドラマ化にあたって
そのテーマ音楽を担当した坂本龍一との対談が企画され
それが2001年に単行本化された。
さらに、今回文庫化されることになった際に
この2004年2月22日に新たに対談がなされたものが追加されている。
 
ひとつの伏線は、「天童荒太さんの見た光」という
ほぼ日刊イトイ新聞での連載である。
五か月連続刊行の『家族狩り』(新潮文庫)をめぐる
全23回に渡るインタビュー。
http://www.1101.com/tendou/index.html
天童荒太の作品は今だその重さというか
シリアスさにつきあうことへのためらいから読んでいないが、
その人物へのある種の共感を感じるようになっていたところだった。
 
さらに、もうひとつの坂本龍一の伏線である。
先週のことだが、図書館で
『ELEPHANTISM/坂本龍一のアフリカ』(2002.4.29発行)という
「ソトコト DVD BOOK」というのを見つけた。
「ソトコト」というのはエコロジーをテーマとした雑誌。
おそらくこれはそのDVDヴァージョンの記念増刊号的なものなのだろう。
DVDと冊子で構成されている。
 
坂本龍一は、アフリカのナイロビ、トゥルカナ、エルモロ、マサイマラを巡る。
坂本龍一の問いかけているのは、人間の攻撃性の根源のことであり、
人類が平和に生きていくことの可能性と不可能性、
人類の絶滅の可能性をめぐる問いである。
9.11の事件がふまえられての試みであるといえる。
 
映像は、タイトルにもなっているように、ELEPHANTなども美しいが、
ある意味でDNA的な発想に縛られているためか
問いが深めれているという印象は少ない。
しかし、ここで紹介しようとしている対話も含めて感じたのは、
坂本龍一の面白さというのは、その子どものような感覚性と
現代という時間のなかで矛盾をおそれずに
現在進行形的にずんずん進んでいくところだということだ。
そしてそれがときに感動を伴ってくることがある。
 
この『ELEPHANTISM/坂本龍一のアフリカ』というのは
本書『少年とアフリカ』の最初の二つの対談、
とくにふたつめの「アフリカ」と題された対話の背景ともなっている。
 
『ELEPHANTISM/坂本龍一のアフリカ』を見ながら思ったのは、
坂本龍一の掲げる、たとえば人間のもつ根源的な攻撃性等といった問題は
つねに世界に向かってはいるけれども、
坂本龍一自身に向かってはいないのかもしれないということだった。
それはこれまでに読んだりした坂本龍一の発言等についても感じていた。
この対話のなかでもその印象は基本的に変わらなかったが、
天童荒太との対話のなかでそれが少しずつ変化していくように
感じられたのはちょっとした感動でもあった。
知性は感じることはよくあっても内省のようなものを感じることは
坂本龍一にはあまりなかったのだけれどそれが。
今年、坂本龍一はCHASMというアルバムを出しているが
そこで感じることのできた何かともどこかで関連しているのかもしれない。
このアルバムは坂本龍一のこれまでのアルバムのなかでは
ぼくにとってはベストであるように感じている。
 
さて、本書の内容について具体的に紹介するのは困難なので、
天童荒太による「文庫本のあとがきにかえて」のなかからの
引用紹介でそれに代える。
 
        現実に起きていることを「否認」せずに見つめるだけで、あなたが
        見る周囲の世界は変わってくるということを伝えられたらと思う。
        ひとりひとりの見る風景が変わると、世界はいまとは確実に違って
        くる。紛争地にボランティアへ行くことがすべてではない。それも    
        すばらしいが、きっとあなたにできることがあって、世界をまっす
        ぐ受け止めていれば、これこれをすべきだと、自分の前に何かがあ
        らわれてくるだろう。
        ただし、「否認」せずに人間や世界を見つめることは、最初はきつ
        いし、苦しいはずだ。支えがいる。仲間の励ましがいる。この本が
        その支えの一つになればと願っている。
 
 
 

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