風のブックマーク2004
「思想」編

 

松本哉『幸田露伴と明治の東京』


2004.7.2

■松本哉『幸田露伴と明治の東京』
 (PHP新書/2004.1.5.発行)
 
幸田露伴に関する書物がなにかでていないか。
書店で検索してみると、幸田露伴の著書も含めて
かなり寒いほどの数しかない。
そのなかでいちばん面白そうなものが
この『幸田露伴と明治の東京』のようである。
 
松本哉という名前はどこかで目にしたことがあったと思っていたところ、
なるほど、以前ここでもご紹介したことがある(と記憶している)
『寺田寅彦は忘れた頃にやってくる』(集英社新書)の著者でもある。
寺田寅彦ファンに変なヤツはいないだろう、と勝手に判断し、
ためらわず読むことにする。
案の定、面白く読み進めることができた。
 
本書の書き出しにこうある。
 
	『五重塔』も読んだことがない……。「五重塔跡」を目の前にして
	そう思ったことが、露伴への扉を開けてしまうきっかけとなった。
 
ぼくはいまだに『五重塔』を読んでさえいなかったりする。
どうも名作といわれるものは名前だけで
同じ作者にしてもどうもその最もポピュラーなものを敬遠して
周辺部のようなところから入っていく性格は変わらないし、
あまり変える気にもならなかったりする。
どうも一休さんのようなもので、橋の真ん中ではなく
「端」のほうを歩く癖はどうも性分なのだろう。
部屋でも隅っこが好きになる。
だからというわけでもないが、こんな本の紹介にしても、
どんな本なのかを紹介しないままででいたりする。
しかしそういうのもまた視点が変わって
それはそれなりに楽しかろうということで気にしないことにする。
 
幸田露伴のいいのは(というよりも気に入っているのは)
学校にあまりいかないで勝手に勉強したところだ。
いちど京都大学に招かれたこともあったようだが、
学歴のない露伴はそこでかなりいびられたらしく
一年でやめてしまったらしい。
学校に行かないのは悪いことでも
またいいことでもないのは当然だけれど、
露伴はたぶん行かないほうがプラスに出たタイプなのだろう。
人はやはり自分にあった学び方をしたほうがいい。
 
露伴の『努力論』(岩波文庫)の「自己の革新」にもあったが、
「自己を新たにするにも、他によるのと自らするのとの二ツの道がある」。
どちらがいいとはいいきれないが、大事なのはどちらにしても
「よろしく発奮」することなのだろう。
そういえば、『努力論』については、
渡部昇一とか中野孝二もそれについての著書があるようだが、
もうちょっと別のタイプの方が『努力論』を語ったほうが面白かろうにとも思う。
教育的な感じのあまりしない人のほうが、「努力」という言葉にくさみが少なくてい
い。
 
本書は、著者が露伴に関連した場所を実際に歩き回ったりしながら、
風景画家でもあるということからその風景を描いたものを紹介しながら
露伴の人と、その周辺部の人たちを描き出していて、ついつい読み進めてしまう。
最後に永井荷風との関係を描いているのも面白い。
 
幸田露伴と永井荷風は相まみえることはなかったらしいが、
永井荷風は露伴の著書を愛読し尊敬していたらしい。
人を褒めず敬称もあまり使わない永井荷風が
露伴のことだけは「露伴さん」と呼んでいた。
「さん」と呼んでいたのは、露伴以外では、
『天子さん』『鴎外さん』『小波さん』くらいで
あとは君づけか呼び捨てが多かったという。
露伴も永井荷風の作品を「涼しそうに書いている」といっていたように
それなりの敬意をもっていたようだ。
永井荷風をぼくはまだ読んだことがないが
今の幸田露伴エポックが落ち着いたら読んでみたいと思っている。
 
 

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