風のブックマーク2

林将之『樹皮ハンドブック』


2006.10.21

 

■林将之『樹皮ハンドブック』
 (文一総合出版/2006.10.20.発行)

「樹皮だけで木を見分けられないものか」
このハンドブックの最初に書かれている言葉である。

青木玉の『こぼれ種』(新潮文庫)の最初にこういう話がでている。
母である幸田文の家の前に大きな木が立っていて、
祖父である幸田露伴もその木を榎だといいそれを疑ってはいなかったが、
実際は椋だったという話だ。
植物に詳しかった幸田露伴にしてそうなのだから、
そうでない人に木を見分けることがやさしいはずはない。

樹皮だけでなくても、木を見分けるのはほんとうにむずかしく、
まさに初心者以外のなにものでもないぼくには、
森にいっても、表示がないと目の前の木が何の木か
皆目わからないことのほうが多い。
樹皮だけでなくても、木を見分けることができれば
どんなにかいいかと思いながらもほんとうにわからない。

日頃からそう思っているところに、
樹皮だけで木を見分けるためのハンドブックがでていることを知った。
このところ毎月買っている「BIRDER]という
バードウォッチングマガジンを出版している文一総合出版という出版社があって、
そのバードウォッチングのオンライン版として送られてくる
メールマガジンにそのことが載っていたのである。

木を見分けるには基本的な樹形や枝や葉のつきかた、
そしてもちろん葉の形を見るというのが必要だけれど、
冬になって葉を落としてしまったときに
まるで初心者のぼくのような場合、
丸太とにらめっこしても皆目検討がつかなくなってしまうわけである。
そんななかで、樹皮だけで木を見分けることができればどんなにかいいだろう。
そう思うのは人情である。
しかも、やはり図鑑の類というのは、なんにせよ心躍ってしまう。

実際に手に入れてみると、
これまで樹皮の図鑑というのは刊行されたことがないそうである。
その理由として書かれてあるのは
樹皮の見せる姿が多様で種類を見分ける決め手には
なりがたいと考えられているからだろうということでした。

実際のところ、同じ樹だといっても、
樹皮には、さまざまな変異が見られ、
樹皮ごとに裂け方、色、皮目の形や有無などが異なっているだけではなく、
樹齢、生育環境、付着物、病害虫、地域差などによって、
想像以上に多様であるために、見分けるのは大変むずかしいとある。
しかし、むずかしいからこそのおもしろさもあるわけで、
このハンドブックがあれば、若干は木の判別が
できるようになるのではと期待している。

本書には、樹皮を見るときのポイントが次のように整理されているので、
参考までにご紹介しておくことにしたい。

  必ず確認したい点は以下の3つです。(1)裂け目やすじ、はがれは
  あるか。どんな様子か?(2)色は何色っぽいか?(3)皮目はある
  か、どんな形か?
  これに加え、指で押さえた時の硬さ、ナイフ等で削った時の匂いや色、
  樹皮をはいだ時のはげ方、地衣類のつき方や病害虫の症状などが特徴
  になることもあるので、試せることは試したいものです。

でも、結局はこうあるのではあるが。

  樹皮による同定方法は確立されていないので、あなたがよく見る木々
  について、あなた独自の見分け方を探してみてください。

そういわれてしまえば、途方にくれてしまうわけだけれど、
樹を見分けることだけでなく、ほかのあらゆることは、
しっかり観察し経験を積んでいくしか方法はないことが多いわけで、
結局のところは、完全なアンチョコというのはないということは確かである。

とはいえ、このハンドブックはとてもコンパクトでよくできていて、
いつも手元において観察を重ねていけば、
ほんの少しずつではあるけれど見分け方がわかってくるかな、と
少しばかり期待しているのである。