風のブックマーク2

 松居竜五・岩崎仁編『南方熊楠の森』


2006.4.18

 

■松居竜五・岩崎仁編『南方熊楠の森』
 (発売・オクターブ/発行:方丈堂出版 2005.12.20.発行)

南方熊楠について興味をお持ちの方には、ぜひ参照してほしいのが本書。
すでに数ヶ月まえに購入、読み進めていたのだけれど、ご紹介するのを失念していて、
昨日急に思い出したので、ざっとブックマークしておくことにしたい。

本書は、1901年に那智の原生林で調査を行なった頃から、
1911年頃の神社合祀反対運動を行なっていた頃までの
南方熊楠の活動に焦点をあてながら、
第一部「南方熊楠が歩いた熊野」では、紀伊半島での活動について、
第二部「南方熊楠の生態調査」では、植物学の各分野からみた調査・研究について、
そして第三部「南方マンダラをめぐって」では、
発見された新資料「土宜法龍宛南方熊楠書簡」の翻刻をはじめ、
南方熊楠のとらえた世界観である「南方マンダラ」について
理解を深めることができる内容となっている。

さらに、第四部「データーベースとしての森」では、
熊楠研究のデーターベース化を推進している「デジタル熊楠」について紹介され、
実際に、付録としてCD-ROMがつけられていて、その一端を見ることができる。
そのなかには、『南方二書』をテキストとして熊楠の森の現在について
撮影・紹介されている映像作品「南方二書の世界」も収録されている。
このCDーROMがついて2,858円というのはかなりお得感がある。

さて、本書のなかでもっとも興味深いのは、やはり新資料を踏まえた
「南方マンダラ」についての解説・分析だろう。

この「南方マンダラ」という世界観が描かれたのは、
那智を拠点に穏花植物を精力的に採集を行なっていた1903年夏で、
土宜法龍との往復書簡に注目した鶴見和子がその重要性を指摘してからのこと。
さらに、1903年8月8日付の書簡に描かれているマンダラ図を重視し
そのマンダラこそ核心であるとして南方熊楠の宇宙を描き出そうとしたのが
中沢新一の『森のバロック』(せりか書房)だったことはよく知られている。
そういえば、最初河出書房から文庫で随時刊行されていたのを
毎回どきどきしながら読んでいたことを思い出す。
そのなかの論考部分がまとめられているのが、『森のバロック』。

その土宜法龍との往復書簡は、1990年に
『南方熊楠 土宜法龍 往復書簡』(八坂書房)という形で
読むことができるようになったが、それは十数年に渡るやりとりの全体ではなく、
2000年に発見された約50通の土宜法龍から南方熊楠に宛てた書簡、
2004年に発見された38通のら南方熊楠自筆の書簡など
その後のさまざまな新資料を合わせると、既刊分の資料の2〜3倍の規模にな るという。

全貌はまだ公刊されていないのだけれど、本書では、そうした新資料を踏まえながら、
「南方マンダラ」の形成について、とらえなされている。
南方熊楠研究は、ほんとうにまだまだはじまったばかりなんだということを
本書を通じて、あらためて実感させられる。