風のブックマーク2

 武満浅香『作曲家・武満徹との日々を語る』


2006.3.12

 

■武満浅香『作曲家・武満徹との日々を語る』
 (聞き手・武満徹全集編集長/小学館2006.3.20.発行)

先月の2月20日で、武満徹が亡くなってちょうど10年になる。
その没後10年を記念して、まとまった形でCDが発売されたり、
こうして武満徹婦人へのインタビュー&対談や、
谷川俊太郎対談集などが企画されている。

本書は、2004年に完結した全5巻『武満徹全集』の月報に
一部紹介されたものをできる限り紹介するとともに
他の機会での話なども加えて収録したもので、
ぼくのこれまで読んだことのあるもののなかで、
もっとも武満徹の素顔のようなものが伝わってきて、
いっしょに笑ったりまた涙ぐんだりしながら読んだ。
武満徹をめぐるさまざまな人たちとの関係や
そこからまたひろがっていくさまざまなことなど、
違った角度からまた武満徹を聞き直す/読み直すことになりそうだ。

何度か書いたことがあると思うけれど、ときおり、というか定期的に、
武満徹の音楽を無性に聴きたくなることがある。
ちょっと似た部分もある、バルトークやメシアンをきいて満足したり、
ドビュッシー、はたまた雅楽などをきいて満足したりすることもあるのだけれど、
武満徹の音楽というのは、それらとも違ったものを確実にもっている。
その音楽のタイトルにはよく「庭」だとか「樹」、「雨」だとかいう言葉が
使われているけれど、そういうものの映像が(ドビュッシーとは違った意味で)
浮かび上がり変化していくものを体験することができるのだ。
音楽を聴くというのは、そもそも内と外というのはすでに意味をもたないが、
武満徹の音楽を聴くと、ある意味それをきわめてヴィヴッドに
まるで、たとえばクレーの絵画が内から動きながら変化していくような、
抽象度をもった音の印象の粒/波が内から描かれていくような
そんな体験を持つことができるところがある。
少なくとも、外からねじ伏せてしまうような音楽とは対極にある。
そういうところが、西欧でおそらくは武満徹を神秘化してとらえる
原因にもなっているのだろうけど。

しかし、ここで武満浅香さんによって語られる武満徹は
とくに神秘的なところはなく、ちょっと変わってはいるけれど、
とても愛すべき、真摯な人物である。
ここでは語られないというか、だれにも見ることにできない、
自分の部屋などでの作曲の時間のことが
語られないがゆえに興味をひかれるところであるが、
本書の主題はそこにはない。
映画が大好きで、阪神ファンでときに六甲おろしさえ歌う
武満徹という人物の素顔を知ることができるだけで
本書の意義は十分達せられているだろう。

ちなみに、本書を読み進みながら、
ネットで武満徹関係のサイトを調べてみたら、武満徹の作品を調べたり、
実際にインタビューされた音源をきくことのできる次のHPを見つけた。

http://www2a.biglobe.ne.jp/~moyse/index.htm

ここできけるインタビュー音源は、以下のとおりで、
全部で2時間近くあるのではないだろうか。
貴重なデータである。

・柴田南雄によるインタビュー.mp3
・中沢新一との対談.mp3
・映画音楽について.mp3
・「系図」(映像版)製作過程.mp3
・あの人に会いたい.mp3
・ノヴェンバー・ステップスについて.mp3
・光と音の詩(抜粋).mp3