風のブックマーク2

 A・C・ハーウッド『シュタイナー教育と子供』


2006.3.4.

 

■A・C・ハーウッド『シュタイナー教育と子供』
 (中村正明訳 青土社/2005.12.10.発行)

シュタイナー教育に関する著者は、いまやかなりの量にのぼっているが、
じっさいのところ、シュタイナーの精神科学の精華のひとつでもある
教育に関する示唆を総合的にとらえ、
その基礎に立ちながら確かな視点で書かれていると思われるものは限られている。
シュタイナーの視野はあまりにも広いので、
テーマが限定されることはある意味致し方ないのではあるけれども、
だからといって総合的な視野が必要でないということにはならないだろう。

本書はシュタイナー教育に関する古典的名著だとされているが、
読んでみて深く納得し、訳の良さもあるのだろうが、
このハーウッドという人の言葉をページをめくるごとに
深い感動をもって読み進めることができるほどだった。
やはり、言葉というのは発する人が発すると、しっかり伝わってくる。
昨年暮れに本書を手に入れてから、この2ヶ月ほど、
いつも鞄のなかにおれておいたりしながら、少しずつ少しずつ
読み返しながら読み進めていたのだが、言葉が古びないとはこのことだろう。
この「ブックマーク」では、あえてあまりシュタイナー関係のものは
とりあげないのだけれど、少し逡巡した結果、やはりご紹介してみることにした。

著者のハーウッドは、イギリスで最初のシュタイナー学校創立のメンバーのひとり。
原題は“The Way of a Child”、本書のもとになったのは1967年版のようだが、
初版は1940年に書かれたということである。
訳者は同じ青土社からでている、これも名著の一冊だろうが
シェパード『シュタイナーの思想と生涯』と同じ中村正明。
原文を参照したわけではないが、とてもバランスの良い訳で、
理解に裏付けられているからだろう、読んでいて違和感をいだくことはなかった。

本書の内容については、ひょっとしたらまたどこかでとりあえることもあるか もしれないが、
ここでは、訳者のあとがきに書かれていることで、ご紹介に代えてみたいと思う。

 シュタイナーは教育をするには、人間についての理解、ならびに人間と世界
との関係についての理解を深める必要があると繰り返し語った。教育とは人間
を育てることであり、そのためには人間の本質について知っていなくてはなら
ない。本書で述べられている内容はまさしくそれである。親であれ教 師であれ、
教育に携わる人は一般に成人した大人であり、子供のことは自分の子供時代を
思い出すことによって知る。しかし、思い出す内容には限界があるし、自分の
経験が一般性をもつとは限らない。そこで本書のように子供時代についての知
識を提供する書物が必要になる。本書を読むことによって、自分の子供時代の
体験を新たな視点から見ることもできるだろう。
・・・
 日本においても教育の機器が叫ばれて久しい。日本では現在、戦争のような
破壊行為は行われてはいないが、何かがこわれているーーあるいは、こわれか
けているーーことを感じている人は少なくないだろう。破壊のあとは創造しよ
うとするのが人間である。人は教育には夢を感じ、希望を抱く。私たちの未来
は教育にかかっていると感じる。今日、教育はどうなっているのだろうという
問いを発する人は多い。それは教育を改革してほしいという声だが、教育の改
革には人間についての理解、そして人間と世界の関係についての理解を深める
ことがまず必要とされる。迷路にさまよいこんだら原点に立ち返ることが大切
で、その原点をシュタイナーは提供しようとしていると言えよう。