風のブックマーク2


 村上春樹『東京奇譚集』


2005.9.18

■村上春樹『東京奇譚集』
 (新潮社/2005.9.18.発行)

いまさら、村上春樹。
という気持ちが正直のところ最近はないわけではないけれど、
やはり、わざわざ、村上春樹。
というだけのことはあるとあらためて実感した短編集。

「いまさら、村上春樹」というのは、
じっさい、村上春樹を読み始めて四半世紀になって、
新刊がでるとすぐに読むのが習慣になっていて、
いつもというわけではないにしても、
ほとんどのばあい、やっぱり村上春樹だ、と思うことになる。
その繰り返し。

それから、ぼくはあまり「小説を読みたい」とは思わないほうなので、
こうしたものを読むときにはいつも、
なぜ小説なんか読むんだろうとかいう思いがあって、
だからかもしれないが、たまたま読む機会があったりすると、
わりと、だから小説なんか読まないほうがよかったのかもしれない。
というような少しばかりの後悔などを覚えたりもする。

しかし、「やはり、わざわざ、村上春樹。」というのは健在で、
今回もあっという間の、時を忘れてしまうような時間を過ごすことができた。
こんなに面白く途中で倦怠感のないままに読み進めることができてしまう、
しかも、静かにこの物語の残す余韻は、
こうしてぼくのなかにあるある種の闇のようなものを共鳴させ、
成長させることになる。
こういう小説家は「やはり」あまり見あたらない。
そういう意味で、村上春樹はいまだに健在ということができる。
健全に坦々と走り続けることのできる山羊座A型の作家。

できれば長生きをしてぼくがこれから年老いていきながら
坦々とぼくと併走するように書き続けてほしいものだ。
そういう作家、芸術家の存在が
少ないながらもいるというのはとても心強い。

結局この本そのものの紹介をしていないことに気づいたけれど、
村上春樹、今も健在、マイペースということだけで
紹介にはなるのではないかと思いあえて省略ということに。