風の本棚
ポンペイに学べ
2001.11.11
■青柳正規×糸井重里/田中靖夫・画
『ポンペイに学べ』
(朝日出版社/ほぼ日ブックス003/2001.11.1発行)
昨日(11月10日)から、神戸でも
「世界遺産 ポンペイ展」が開幕したということだけれど、
この『ポンペイに学べ』は、
「ほぼ日刊イトイ新聞」で連載されたもので、
その「ポンペイ展」をつくりあげた青柳正規さんとの対話。
今回、「ほぼ日ブックス」というのが創刊されたということもあり、
10冊だされたなかから、いちばん好きなものを買ってみて、
あらためて本のかたちで対話を楽しんでみることにした。
その内容は、その紹介文を使うとこのようなもの。
未来を知るには、過去を知れ。ヴェスヴィオ火山の爆発で滅んだ
ポンペイには、とんでもない「豊かさ」があった!
本書のなかで、糸井重里の次のようなことばがあるが、
読みながらあらためて思ったのは、
私たちが今見失ってしまっているかもしれない
「豊かさ」について考えるためのいろんなヒントが
ここにはあるんだろうなということ。
青柳先生とポンペイ展を見た日に俺は、
「これをどうひとに伝えようか?」
と、伝えることがありすぎてわかんなくなりました。
今思ってみると、
やっぱり伝える鍵は「未来」になるのかなあ?
ポンペイはヴェスヴィオ火山の爆発で埋まってしまった町で、
埋まってしまっていたからこそ、
当時のそのままに近い状況が
そのまま見えてくるところがあるわけで、
それをそのままふ〜ん、こんなだったのか、
だけで終わらないところが
たぶんこの「ポンペイ展」のすごいところで、
今の私たちの暮らし方などが
そこから濃厚に逆照射されてくるんだろうなと思う。
(ぼくは残念ながら見ていないので、憶測なのだけれど)
金持ちになれば幸せになれる、とは
おそらく多くの人が思っていることで、
あるいろんなトラブルやフラストレーションの
もとになっているのは、
お金があるかどうか、なのだろうから、
それもある部分は、違うとは言い切れないのだけれど、
では、望むお金が手に入ったら,
それで何をするのかというと、
それに対する想像力はかなり貧しいのではないかと思う。
お金があったら、どんな「幸せな暮らし」ができるのか?
糸井 今、一生懸命に仕事をしているひとって
みんなそうじゃないかと思うんですけど、
うすおいを得るために、
無理やりある短い時間にお金をかけて、
「うるおった気持ちになったら次の仕事に向かう」
そのくりかえしになりがちですよね。
今の日本のお金持ちの
ある意味での見本になっている
アメリカの経営者たちっていうのも、
そうやってうるいを生活から分断している。
みんな、
「ほんとの豊かさは、違うんだろうな」
と思ってるだろうけど、
それだけではどうしようもないじゃないですか。
ぼくも含めて、豊かさに関してみんなが悩んでいる。
そんな時にポンペイの展覧会を見て、
あ、これかもしれない、と思いました。
どう言ったらいいんでしょう?
無駄なものの多さにびっくりさせられるんですよ。
「お前ら装飾しないと生きていけないのか!」
と思わず言いたくなるぐらいの装飾があって……。
装飾するかどうかというのは、
それぞれの価値観で、
かつての日本では、
むしろものをなくしてゆくことに
美を見出していたところもあるように、
それぞれが自分なりにこだわればいいんだろうけど、
今の日本をみていると、
「こうすれば豊かになれる」というようなことを
マニュアルのように提示していくだけで、
自分も世の中もなんとかなっていくんだ、
というような、非常に怠惰なあり方がいまだに支配的で、
そこから脱することがなかなかできていないように感じざるをえない。
テーマパークができればそこに行く。
レジャー施設ができれば、そこに子どもをつれていく。
話題のテレビや映画を見、流行の音楽をきき、ファッションを模倣し
そうした共有感のなかで安心しようとする。
教育の荒廃が叫ばれれば、
こうすれば子どもは育つという図式を
どこかかから教えてもらろうとする。
たぶん、自分なりに
無駄の多いなかで試行錯誤したり、
あれこれと考えてみたりすることのなかで、
展開してゆくことに
何かを見つけようとするような在り方という発想が
なかなかできないので、
外から教えてもらおうとしてしまうんだろうなと思う。
この「ポンペイ展」にしても、
これを現代に対するアンチととってしまったして、
みんなおなじような反応をしてしまうと
おかしなことになってしまうんだろうけど、
たぶん、そういうことは
起こりにくいんだろうなと
この対談からは感じることができる。
ローマでは、かつてこんな豊かさがあった。
では、自分の豊かさっていうのは、
いったい何なのだろうか。
そのことを考えるためにも、
本書は、なかなかいいきっかけになるように思う。
ちなみに、本書を買わなくても、
(糸井重里さんは買って!というかもしれないけど(^^;)
ネットのなかでもデータはあるので、
とりあえずはそれを読んでみるのもいいかもしれない。
対談風景などの写真もあるので、
本とはまた違った感じの受け取り方もできるかもしれない。
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