恩田陸『ロミオとロミオは永遠に』


2002.11.13

 

■恩田陸『ロミオとロミオは永遠に』
 (早川書房 ハヤカワSFシリーズJコレクション 2002.10.31発行)
 
少し気になるハヤカワSFシリーズJコレクションという企画の1冊。
恩田陸のデビュー10周年記念作品らしい。
10周年というと登場は1992年ということになるが、
とくにここ数年での恩田陸の活躍はめざましい。
 
ここ数年で女性作家で気になる存在といえば、
この恩田陸に佐藤亜紀、そして多和田葉子あたりだが、
(佐藤亜紀の新作は『天使』、多和田葉子も『球形時間』など元気な作品が続々)
その作品のポップさと多彩さという点では恩田陸だろうなと思う。
いつもそのエンディングについては少し不満が残るし、
ノスタルジックなところが特徴だともいえるので、
もうひとつヌケがないということはいえるかもしれないが…。
 
ところで、今回の『ロミオとロミオは永遠に』。
タイトルの意味は、いまだよくわからないが(^^;)、
「郷愁と狂騒の20世紀に捧げるオマージュ」とあるように
20世紀の愛すべき?サブカルチャーの「オンパレード」となっている。
そういえば、読みながら、浦沢直樹の『20世紀少年』と
通じる試みだともいえるかもしれない。
どちらも近未来の日本を舞台にしたとても暗いストーリーではあるが、
21世紀に突入した今、暗い近未来イメージから見た20世紀を
愛着をもってとらえながらまだまったく見えてこない未来への通路を
模索しようとしているように見える。
愛すべき20世紀へのオマージュといえば、
最近では音楽もまさにそういうものになっている気がする。
あまりに「先」の見えない今、過去を総括してみようとしている。
カヴァーという形であれパロディという形であれ。
 
「当初からこの小説のイメージに固く結びついていたのは、
私のオールタイム・ベストの映画『大脱走』です。
子どもの頃、私にとってわくわくする面白さを象徴していたのが、
毎年暮れにTVで前編・後編で放映されていた映画『大脱走』でした。
彼らは何から脱走していたのでしょうか?
彼らは何に向かって脱走していたのでしょうか?
あの時感じていた世界への憧れを、この小説で表現できたらと思います。」
 
とあとがきにあるが、まさにこの小説は恩田版の大脱走。
どきどきしながら読み進めていきながら、
ぼくもこの「脱走」ということについてずっと考えていた。
ぼくのなかにも、この「脱走」しなくちゃという切実な思いは常にあるのだけれど、
はたしてどこへ「脱走」したらいいのか、よくわからない。
この小説でのノスタルジックな方向でのエンディングはちょっとばかり不満で、
ぼくのなかの「脱走」に思いをめぐらせていたりする。
 
少し陳腐な物言いにはなるのだけれど、
実際、どこにも「脱走」できる「外」などありはしないのだ。
この地上世界が牢獄だから霊的世界へ「脱出」するというのも
やはり大いなる誤解でしかないだろうし。
では、どこにむかって「脱出」するのか。
それは直線的な未来への時間ではなく、ノスタルジックな過去へでもなく、
時間の深みへの「脱走」。
「脱走」という言葉はふさわしくないかもしれない。
やはりそれも「〜からの自由」というのを越えて
「〜への自由」がポエジーになる方向でなくてはと思うが、
しかし、出口の見えない21世紀初頭の狂騒を目の前にしている今、
はたしてどんな近未来が広がっているのか(閉塞しているのか)。
やはりそれが気になってしかたがない今日この頃。
おそらくこの『ロミオとロミオは永遠に』も
また『20世紀少年』も、そういう思いからでてきているのだろう。
 
 

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