「無限」に魅入られた天才数学者たち


2002.3.4

 

■アミール・D・アクゼル
 「無限」に魅入られた天才数学者たち
 (早川書房/2002.2.28発行)
 
昨夜、本書を読み進めていて、
昨日の3月3日がゲオルク・カントールの誕生日だということがわかって
それにちょっと驚いたりしたので、ご紹介することにした。
 
ぼく自身数学に対して理解がそんなに深いとはいえないし、
計算的な数学についてはもうまるで駄目なのだけれど(^^;)、
「それがいったい何を意味しているのか」
「それはいったい世界に対して何をしようとしているのか」
「数学とはいったいいかなる営為なのか」
ということに関してはずっと興味をもってきている。
そうしたなかで、こうした本がでると、
そのためのガイドとして読んでみたくなることがある。
しかもテーマは「無限」。
 
本書は、「無限」が数学の概念として認められるまでの物語であり、
そのなかでこのカントールが主役を演じている。
数学になる前、「無限」は神にほかならなかった。
カントール以前には、数学者たちは「無限」を敬して遠ざけていた。
カントールには、ユダヤ神秘主義のカバラが深く影響しているらしい。
 
本書の第一章はカントールの生きたハレという都市ではじまり、
「無限の発見」と名づけられた第二章では、
ギリシアのゼノン、ピュタゴラス、アルキメデス等が紹介され、
そして第三章では「カバラ」が登場。
第4章ではガリレオとボルツァーノ、
第5章ではリーマン、ワイエルシュトラスときて、
そして次章以降でカントールの「無限」へのアプローチが検討紹介されていく。
 
こうした数学者たちの営為というのは、
ぼくも含め、一般にはとても難しいテーマだとはいえるのかもしれないが、
本書で描かれている数学に関する詳細な理解はできないとしても、
「無限」ということについてどのようなことが
議論、検討されてきているのか、
またそれがいったいどのような意味を持ち得るのか、
ということについて考えるために、本書は格好の材料を提供してくれているように思う。
しかも、おそらく、こうした数学は
神秘学とも切っても切り離せない関係にあるところがある。
少なくとも、深いところでこの世界を成立させている
私たちの世界観の成立にも深く影響しているはずである。
そして、そうした数学をめぐってのドラマは、
一般に数学がもたれているイメージとは異なり、
とても人間くさいものである。
しかも、なにより変わった人が多い(^^;)。
 
         オルク・カントールは単独で無限に立ち向かい、数学の世界に激震を
        起こした数学者である。彼は、それまで神であった無限を数にした。そ
        ればかりか、無限はひとつではなく、「無限に」たくさんあると言い出
        したのだ。カントールによって引き起こされた変革は、時代も分野も違
        うとはいえ、アリストテレスの世界観からコペルニクスの世界観への転
        換に匹敵するといっても過言ではないだろう。コペルニクスの革命は多
        くの痛みを伴うものだったが、その転換を経験したことは西洋思想にと
        って大きな財産となった。カントールの超限集合もまた、コペルニクス
        の地動説と同様の反応を引き起こしたーー火あぶりにこそならなかった
        ものの、カントールが置かれた状況は、並の人間ならば二度と立ち上が
        れなくなってもおかしくはないものだった。(訳者あとがき、より)
 
コペルニクスというのは比較的ポピュラーだけれど、
このカントールは一般には馴染みが薄いかもしれない。
しかし、世界観の変革を起こさせるほどの営為に関しては、
今こうして生きている私たちにとって、
その前提となるものであるだけに、
できればそれがいったいどういう変革だったのか、
それを見ていくことは少なからぬ重要な経験になるはずである。
 
本書の最後に著者は
「連続体(要するに数直線)は実在するのだろうか?」
という問題を提起している。
 
        「連続体は数学的実在だ」と言ったところで何も言っていないに等しい
        だろうーーなにしろ数学においては、矛盾を引き起こしさえしなければ
        何でもアリなのだから。数学者ではないわれわれ一般人にとって興味が
        あるのは、むしろ「連続体は物理的実在か」という問いではないだろう
        か。われわれ人間の感覚、認識、行動などは、われわれが生きるこの世
        界のありように深く影響を受けている。たとえ数学者といえども、この
        世に人間として生まれてきた以上は、物理的経験が思考の基礎となって
        いるはずである。(訳者あとがき、より)
 
数学とこの世界との関係は
いったいどういうものなのだろうか。
それに対して満足のいく答えることは難しいし、
その関係などどうでもいいともいう人もいるかもしれないが、
数学がなぜこの物理的世界にも有効に働くのだろうか、
ということを考えるとき、その問いは決して無視できないものである。
それはある意味で、私たちはいったい「どこに」「どのように」生きているのか
ということに深く深く関係しているのだから。
 
 

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