八木雄二『古代哲学への招待』


2002.10.28

 

■八木雄二『古代哲学への招待〜パルメニデスとソクラテスから始めよう〜』
 (平凡社新書156/2002.10.22発行)
 
ヨハネス・ドゥンス・スコットゥスを中心に中世哲学を紹介した
おなじく平凡社新書(069)の『中世哲学への招待』姉妹編。
パルメニデス、ソクラテス、プラトン、アリストテレス、エピクロス、
ストア派、プロティノス、アウグスティヌスについて、
とくに哲学の始まりでもある、ピュタゴラスを継承するパルメニデスと
プラトンとの違いが見えにくいソクラテスに照射されるかたちで
『古代哲学』が紹介されている。
 
著者の八木雄二については、7月頃に『イエスと親鸞』もご紹介しましたが、
先日もシャルトル学派について話題になった
平凡社の『中世思想原典集成』の翻訳にも中心的に関わっているようですが、
ようやく日本でも、いわゆる「ヨーロッパ的思考」の基盤にもなっていると思われる
中世哲学が紹介されはじめたところ。
シュタイナーを読んでいく際にも、そこらへんのところについての
日本語の資料が少なかったのが、やっと補完されてきた感じがする。
 
本書では、プラトンとアリストテレスが中心になっているものの、
ヨーロッパの哲学の最大の源泉はピュタゴラスであって、
「プラトンもアリストテレスも、本質的にピュタゴラス主義者」だというのが
著者の基本的な視点になっている。
 
         ピュタゴラス主義とわたしが呼ぶのは、宇宙の理解に関して数学的ないし
        幾何学を土台にするという立場である。プラトンのイデア論も、アリストテ
        レスの万有についての存在論(形而上学)も、実はパルメニデスを通過した
        ピュタゴラス主義の発展形態なのである。すなわちプラトンは、一方で問答
        を繰り返していたソクラテスの強い感化を受けていたが、それとは別に、ピ
        ュタゴラス学派に属したパルメニデスから知恵の愛求(哲学)精神を受け取
        り、あわせてその仲間たちから数学・幾何学の研究を受け取っている。他方
        アリストテレスは、プラトンからピュタゴラスを学んだ。ただかれは、感覚
        的個物の研究を土台にする試みを加えている。つまり両者とも同じくピュタ
        ゴラス主義であり、他方でたしかにそれぞれユニークなのである。すなわち、
        一方はソクラテスの影響を加えており、他方は感覚的個物経験の重要さを加
        えている。
         さらになお、これまでの哲学史はたいてい、プラトンはプラトン主義の元
        祖であり、アリストテレスはアリストテレス主義の元祖であって、それ以上
        の遡及はなく、その母胎の追及があやふやであった。この基礎理解が、古代
        の哲学史を理解しにくいものにしている。検討すべき源泉はプラトンとアリ
        ストテレスではなく、むしろピュタゴラスとソクラテスなのである。とはい
        え、ピュタゴラスはあまりに伝説的なので、この本では直接にはあつかわず、
        まずはパルメニデスというピュタゴラス派に属した哲学者を取り上げるつも
        りである。そして、ソクラテスについては、プラトン学派の解釈に染められ
        る以前のかれの哲学を取り出していくらか丹念に示すつもりである。
        (P.10-11)
 
そういえば、ピュタゴラス派に関しては、比較的最近次の訳書がでていて、
興味深く思っていたところだった。
■B.チェントローネ『ピュタゴラス派/その生と哲学』(岩波書店/2000.1.24)
 
それにしても、あらためて思うのは、ピュタゴラスは別として、
やはりソクラテスという存在の独自性である。
同時代のインドには釈迦が出ているが、
ともにいわば「自己意識」ということがテーマになっているように思える。
 
しかもソクラテスの場合、対話というか議論によって
それを深めていく可能性を追求していった。
西洋的な、なんでも議論していくというか、
言葉にしていかないと考えたことにならない、
という在り方がそこから発している。
 
そのなんでも議論的なあり方は
ぼくにとってもちょっと疲れてしまうものではあるし、
なんでも言葉にしないといけないというのは
いわば「ダサイ」という感覚は強いのだけれど(^^;)、
やはり西洋において歴史的に蓄積されてきたそうした在り方を理解するためにも、
またそれがなぜそうなされてきたのかということを見る上でも、
その源泉としての西洋古代の哲学潮流について
こうして見てみることは非常なヒントになるのではないだろうか。
 
その意味でも、そこらへんのことについて詳しい
この八木雄二という人、しばらく要注目という気がしている。
 
 

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