季刊銀花 2002夏第百三十号


2002.8.14

 

■季刊銀花 2002夏第百三十号
 (文化出版局 2002.6.30発行)
 
これだけはっきりしたポリシーをもった比較的マイナーな雑誌が、
季刊にせよ、よく第百三十号まで刊行され続けてきているな、
ということをいつも思うのがこの「銀花」。
編集内容にしてもレイアウト、デザインにしても、
これだけのものをこれだけのクオリティで続けていくのは
ざぞ苦労が多いことだろうというのが実感。
 
編集草(編集者の雑想)にも今回こういうのがあった。
 
        「世の中でいちばん無駄だけれどいちばん役に立つような雑誌を作りたい」
        と言っていたのは、入社時の編集長。なるほど今も、どのページを開いても、
        無駄といえば無駄。おなかがくちくなるわけではない。
 
できれば、このtoposも
「世の中でいちばん無駄だけれどいちばん役に立つような」
MLでありHPであり続けたい。
「遊戯団」の「遊戯」もそういう「無駄」であれたらな。
というのが正直な感想。
 
それはともかく、とりわけ今回は、内容が素晴らしく充実している。
 
特集1は、「旅するビーズ」。
ビーズをめぐる壮大な旅のめくるめくパノラマ。
 
        紐を通す穴があいただけの小さな玉、ビーズ。しかしそこに人々は
        宗教的、呪術的な神秘の力を感じ取っていた。ガラス、紅玉髄やめ
        のうといった貴石ばかりか、自然界にある植物の種や貝にまで、吉
        祥や長寿などの願いを託したのである。特にガラスビーズは十七世
        紀以降交易品として世界中に広まる。ヨーロッパからアフリカへ、
        さらに大海原を渡りフィリピン、台湾へと。小さな旅人ビーズの、
        壮大な旅を辿る。
 
特集2は、「ルーシー・リリー百年の光跡」。
1902年にウィーンで生まれ1995年まで生きた陶芸家の作品と営為に感動。
 
        ルーシーに会った人は、誰しもが口をそろえて讃える。器から漂う
        さわやかさと愛らしさ、しかも毅然とした凛々しさ。それは、彼女
        の精神と人柄そのものであると。生涯、自分の好きな形を追及し続
        けたルーシー・リリー。ひたむきに純粋な生き方が。器に生命を吹
        き込み、静かな余情を息づかせる。
 
特集3は、「「鳥の歌」を聴きながらーー野坂徹夫の絵と言葉と音楽」。
野坂徹夫のリリシズムあふれる作品にしばし時を忘れる。
絵本「種まく人」もついている。
 
        青森市のはずれに、野坂さんの住まいとアトリエがある。瀟洒な空
        間には、パブロ・カザルスが演奏するスペイン・カタロニア地方の
        祝歌「鳥の歌」が流れていた。野坂さんは、戦後間もなく、ベビー
        ブームの最中に生まれた。小学校の教師をしていた母は、オルガン
        を弾くのが得意だった。国鉄の機関士だった父はハーモニカを上手
        に吹いた。彼もまた、チェロを抱えればプロはだしの音色を奏で、
        タクトを持てば、たちまちオーケストラの指揮者として活躍するほ
        どの、音楽家の一面を持つ。いつも音楽を傍らに、絵の具や布、流
        木やステンレスまで、多彩な素材と取り組む人の、詩情あふれる世
        界。
 
その他にも、合田佐和子の「バラのトンネル」、
「日本の紙を愛した男、ホルスト・ヤンセン」についての「紙は劇場」など、
どの企画もすぐれもの揃い。
これで1450円とは安い。
できれば、この雑誌、ずっとずっと続いていってほしい。
こんな願いをもっている人は決して少なくないと思う。
 

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