宮崎駿『風の帰る場所』


2002.8.4

 

■宮崎駿『風の帰る場所/ナウシカから千尋までの軌跡』
 (ロッキング・オン/2002.7.19発行)
 
「ロッキング・オン」の渋谷陽一による12年間にわたる
5つのインタビューが収められている。
『Cut』及び『SIGHT』に掲載されたものだが、
本書では、「完全ノーカット収録」ということで、
それだけに細部にわたるまで宮崎駿の息づかいのようなものが伝わってくる。
あまりに面白く、かつ切実で、読み始めるともうやめられなくなった。
 
たとえば、『千と千尋の神隠し』の公開時に刊行された
切通理作『宮崎駿夫の<世界>』(ちくま新書)などは、
宮崎駿夫の、ある意味で「過去」を見渡すためのものかもしれないが、
このインタビューでは、「今」をともに体験するために
読者に向けられた言葉がいっぱいつまっているように感じられた。
これはおそらく渋谷陽一の切り込み方ゆえに可能になったところが大きい。
 
         宮崎駿は、いまや日本で最も影響力のある表現者になってしまった。
        その存在が巨大化すればするほど、宮崎駿を語る言葉は綺麗事になり、
        宮崎駿自信を疎外していく。ヒューマニズムとエコロジーという、実は
        宮崎さんとはねじれの位置にある言葉の中にメディアは宮崎作品を押し
        込めようとする。実は宮崎作品の持つテーマは暗く重い。子供向けの作
        品にもかかわらず、いや子供むけの作品であるからこそ、宮崎駿は自分
        の思想のすべてを懸けて作っている。口当たりのいい綺麗事だけで捉え
        るような代物ではないのだ。僕の対立型のインタビューは、そうした宮
        崎さんの決して口あたりのよくない思想の在り方を浮き彫りにする上で
        は有効だったかもしれない。(渋谷陽一)
 
シュタイナー教育といわれるものと置き換えても
半ばそのままあてはまってしまうかもしれないような「現状」。
シュタイナーの生前、こうしたインタビューがあって、
こうした切り込み方をしてインタビュー集をつくってみたら
すごく面白かっただろうなとか想像してみたりした。
 
それから、宮崎駿の言葉から伝わってくるのは、
作品を創造していくということがいかに
命を絞り続けそこからでてきたものでできているか、ということで、
そのことなしにいわば「芸術」や「創造」を語ることはできない、
ということだった。
 
最近では、あまりに安易に芸術的な営為が、
だれにでもさも簡単にできるものであるかのように語られたり
「癒やし」のひとつとして行なわれたり、
ワークショップがなされたりもしているのだけれど、
やはりそういう安易さを見直してみるためにも、
ここに語られている宮崎駿の言葉は読者の胸に刺さってくるのではないだろうか。
 
 

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