小泉武夫『発酵は力なり』


2002.6.13

 

■小泉武夫『発酵は力なり/食と人類の知恵』
 (NHK人間講座2002.6〜7月期テキスト)
 
最近では、毎朝必ずヨーグルトを食べるようになっていて、
これを食べているとお腹の調子がとてもいい。
このヨーグルトは乳製品なので、たとえばヨーロッパなどでは
ずっと昔から食べているように思われがちなところがあるのだけれど、
ロシアの生理学者のI.メチニコフが二十世紀のはじめに
ブルガリアを旅していたときに、そこには元気で長生きの方がたくさんいて、
そこには牛乳を発酵させた甘酸っぱいものがよく食べられていたことがわかった。
それで、「不老長寿の薬を発見した」ということで、
またたくまに世界中に広がったのが、ヨーグルト。
 
ぼくの知る限りでは、シュタイナーが発酵やそれを使った食品などについて
あまり語っていないようなのは、チーズとか以外では、
当時の西欧においてはこのヨーグルトをふくめ、
発酵食品があまりポピュラーなものではなかったからではないかと思われるのだけれど、
たとえばこの日本においては、納豆、醤油、味噌、鰹節、漬け物、酢、酒というように、
微生物の働きを使った豊かな発酵食品がたくさんあって、
その豊かな食文化がようやく見直され始めている。
これだけ豊かな食の創造と継承がなされてきたにもかかわらず、
ようやくそれらが再発見されるようになったところのようである。
韓国のキムチも発酵食品。
韓国のあのパワフルさもその発酵の力によるところも大きいのかもしれない。
ちなみに、日本で売られているキムチはただ漬け液に漬けただけで
発酵させていないものが多いという。
 
以前からこの発酵及び発酵食品については関心があって、
それについて調べてみたいと思っていたところで、
ちょうどこうしたわかりやすい入門テキストのようなものがでたので、
早速読んでみることにしたところ、思っていた以上に面白い世界。
 
納豆や鰹節、漬け物などだけではなく、
これまであまり知らなかった「熟酢(なれずし)」のことや
世界一臭いスウェーデンの発酵食品「シュール・ストレンミング」のこと、
それから、食品だけではなく、そのほか発酵を使って行なわれる
環境問題やエネルギー問題への取り組みなど、
本書ではさまざまな角度から発酵の世界が紹介されている。
 
現代では食文化も閉じたものではないし、
個人的にいえば、食にばかりこだわる気もないし、
日本の伝統食とかいう閉鎖的な囲い込みも好きになれないけれど、
食が形成されてきたプロセスなどは興味深いものだし、
そのなかで発酵といった、いわば宇宙的な働きについて見ていくことは
とても興味深いし、そこに開かれている世界は思いの外深い。
 
ところで、昨夜は納豆を食べた。
やはりおいしい。
おいしいものを食べる、それがなにより。
そのおいしいという感受性をスポイルさせないことが
大事なのだろうな、と思う。
 

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