松本哉『寺田寅彦は忘れた頃にやって来る』


2002.5.21

 

■松本哉『寺田寅彦は忘れた頃にやって来る』
 (集英社新書0144D/2002.5.22発行)
 
寺田寅彦は思い出深い存在で、
高校生の頃、今もでている岩波文庫で出会って以来、
ぼくにとっては特別な存在であり続けている。
同時代で交流のあった夏目漱石や正岡子規はそうでもないのに、
寺田寅彦だけはなぜか気になる存在なのである。
 
ぼくが高知生まれだということもあるのかもしれないが、
もちろんそれはそれであって、
おそらく物理学における寺田寅彦の視点に
親近感を覚えたというのがあったのだろう。
今になってようやくわかってきたのは、
物理学とポエジーとが寺田寅彦においては同居しているというか、
それはおそらく別のものではないのである。
それがぼくにはとても懐かしい新しさとして感じられたのだ。
 
とはいえ、そんなに寺田寅彦のことを知っているとは言い難く、
今回出たこの新書に書かれている伝記的な事柄の多くは
初めて知ったものだった。
この表題は「天災は忘れた頃にやってくる」という
出典は明かでないものの、寺田寅彦の言葉をもじったものなのだけれど、
そのことさえ知らなかったりした。
早くから結婚していて二度も奥さんに死に別れたということも。
そんな、かなり偏った寺田寅彦ファン・・・。
 
ファンというのに、滅多にその文章を読まなくなってはいるけれど、
読み始めるとぼくのなかで広がってくる言いようのないポエジー。
おそらく寺田寅彦というのは、ぼくにとっては、
ある種の「理念」を表現してくれている人なんだろうと思う。
こういう人がいたというだけで、それだけで、
納得してしまう人というのか。
 
で、たまにこうして寺田寅彦に関するものを読んだりすると、
またぼくのなかにいる寺田寅彦は、静かに、
ぼくに微笑んでくれているような気になる。
まったく自分勝手な受容の仕方だけれど、
そういう特別な存在というのは他にはあまりいない。
とても貴重な存在なのである。
できれば、死んだあとに、一度は会って見たい人の一人が
この寺田寅彦だったりもする。
やっぱりこういうのがファンというものだろう(^.^)。
 
ところで、本書がどんな本なのか、あまり紹介しなかったけれど、
「あとがき」によれば、
「随筆家として、物理学者として、寺田寅彦がどんな人物だったかを
述べたのが本書である」ということである。
「時代背景、地理的風土も盛り込んだ」という。
ぼくには、人間関係なども面白く読めた。
 
久々に心和んで読むことのできた一冊だったので、ご紹介することにした。
 

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