■松本哉『寺田寅彦は忘れた頃にやって来る』 (集英社新書0144D/2002.5.22発行) 寺田寅彦は思い出深い存在で、 高校生の頃、今もでている岩波文庫で出会って以来、 ぼくにとっては特別な存在であり続けている。 同時代で交流のあった夏目漱石や正岡子規はそうでもないのに、 寺田寅彦だけはなぜか気になる存在なのである。 ぼくが高知生まれだということもあるのかもしれないが、 もちろんそれはそれであって、 おそらく物理学における寺田寅彦の視点に 親近感を覚えたというのがあったのだろう。 今になってようやくわかってきたのは、 物理学とポエジーとが寺田寅彦においては同居しているというか、 それはおそらく別のものではないのである。 それがぼくにはとても懐かしい新しさとして感じられたのだ。 とはいえ、そんなに寺田寅彦のことを知っているとは言い難く、 今回出たこの新書に書かれている伝記的な事柄の多くは 初めて知ったものだった。 この表題は「天災は忘れた頃にやってくる」という 出典は明かでないものの、寺田寅彦の言葉をもじったものなのだけれど、 そのことさえ知らなかったりした。 早くから結婚していて二度も奥さんに死に別れたということも。 そんな、かなり偏った寺田寅彦ファン・・・。 ファンというのに、滅多にその文章を読まなくなってはいるけれど、 読み始めるとぼくのなかで広がってくる言いようのないポエジー。 おそらく寺田寅彦というのは、ぼくにとっては、 ある種の「理念」を表現してくれている人なんだろうと思う。 こういう人がいたというだけで、それだけで、 納得してしまう人というのか。 で、たまにこうして寺田寅彦に関するものを読んだりすると、 またぼくのなかにいる寺田寅彦は、静かに、 ぼくに微笑んでくれているような気になる。 まったく自分勝手な受容の仕方だけれど、 そういう特別な存在というのは他にはあまりいない。 とても貴重な存在なのである。 できれば、死んだあとに、一度は会って見たい人の一人が この寺田寅彦だったりもする。 やっぱりこういうのがファンというものだろう(^.^)。 ところで、本書がどんな本なのか、あまり紹介しなかったけれど、 「あとがき」によれば、 「随筆家として、物理学者として、寺田寅彦がどんな人物だったかを 述べたのが本書である」ということである。 「時代背景、地理的風土も盛り込んだ」という。 ぼくには、人間関係なども面白く読めた。 久々に心和んで読むことのできた一冊だったので、ご紹介することにした。 |