「映画に耳を」をめぐる逍遙 06 

タルコフスキー『鏡』(1974)

第6回目は、アンドレイ・タルコフスキー監督の『鏡』。
タルコフスキーの自伝的要素の強い映画だといわれ、また同時にロシアの現代の歴史を描いた映画だということもできるだろうが、中年男性がみずからを回顧する・・・という以外、あまり具体的な物語は見えてこない映画。個人の歴史である記憶が交錯し交響しながらそこにロシアの歴史が重ね合わせられる・・・。
タイトルの「鏡」の意味するところは、うまく意識化できずにいる心の深みにある記憶や情景のイマージュが、魔術的な仕方で、まるで「鏡」に映る像のように再現され意識化される・・・とでもいえるだろうか。 タルコフスキーにとっては、記憶のなかの現在である過去と過去のイマージュとしての現在・・・といった記憶のいわば「鏡」のなかに永遠が存在している、ということなのかもしれない。
音楽担当は、エドゥアルド・アルテミエフ。音楽といってもテーマソングがオープニングやエンディングを飾る・・・というようなものではなく、自然の音が魔術的といえるほどに、しかし説得力をもって使われている。
その『鏡』からピックアップされたシーンがあったのでそれを。「水」がきわめて魔術的に描かれているのが印象的である(ちょっとこわいくらい)。音の作り方も絶妙、心の奥にまどろんでいる記憶がしたたりながら鏡に映りこんでいるような観じもする。ぼく自身の心の奥の鏡に映っている記憶はどんなだろうと思ったりもしながら・・・。

http://www.youtube.com/watch?v=TlRN1bvVd28