武田正倫(水生生物)・西田賢司(昆虫)監修
『世界の美しい透明な生き物』2

2013.7.1



 

◎武田正倫(水生生物)・西田賢司(昆虫)監修
『世界の美しい透明な生き物』(エクスナレッジ/2013.7.1)

世界で唯一という「透明生物図鑑」。一生ものの図鑑がまたひとつ。標本ではない、世界中の透き通った生物写真が229点。ここまで集めるとは!監修者及び関係者の情熱に感謝。各テーマ毎の章のはじめにそえられた言葉はポエジーに満ちているし、それぞれの生き物について解説された文章も愛情いっぱいの自然詩のようです。

宮沢賢治の『注文の多い料理店』の序に、「わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます」と、「きれいにすきとおった」という言葉のでてくるところがあるけれど、ほんとうに「すきとおった」きれいな生き物には、不思議をこえた神秘を感じないわけにはいかない。しかも、「ひどいぼろぼろのきもの」を「宝石いりのきもの」に変えるイマジネーションではなく、生き物そのものがすきとおっているのですから。もちろん、賢治の積極的なイマジネーションこそが大切なのではあるけれど、世界がそのままで宝石のように見えるという事実をたしかに見ることもまた大切なことではないかと思う。

「朝露が滴る山々、密林の奥地、熱帯のドロの川、光のない洞窟、大海原、深海、サンゴの森、ミクロの奇界!深い森の闇から暗黒の深海まで、透明な生き物が息づく光と闇の世界」をまのあたりのするのがいちばんなので、ここに掲載されている写真もしくは掲載されている生き物たちの写真を少しだけご紹介しておきたい。

☆写真/表紙:ラパルアマガエルモドキ(グラスフロッグ)、サンカヨウの花、ツマジロスカシマダラ、アクラガハマタの幼虫、オオタルマワシ、サフィリナ、スカシダコ、ハナガサクラゲ、シャミッソーサルパ。
写真はFacebookのほうでとりあえずどうぞ。
http://www.facebook.com/kazenotopos

本書の最初に紹介されているのはサンカヨウの花。ふつうは白い花だけれど朝露や雨に濡れると花びらが透けて見えます。この花をオープニングにして、次々と透き通った生き物たちが登場してきます。ふつう蝶の翅は鱗粉をまとっているのですが、ツマジロスカシマダラはまるでステンドグラスのような翅。表紙になっているのは、グラスフロッグという熱帯の高い山の樹木の上で暮らしているカエル。アクラガハマタの幼虫は1.5cmほどのまるでゼリーのようなイモムシ。オオタルマワシはまるでエイリアンのような甲殻類の仲間。サフィリナはカイアシ類で、胸脚をボートの櫂のように使って泳ぐ極小の甲殻類。スカシダコは別名ガラスダコ。クラゲ好きには有名なハナガサクラゲは、日本の本州から九州なでに分布している10cm程度のクラゲで、まるで花笠踊り。そして、名前があれ?っと思ったシャミッソーサルパ。シャミッソーといえば『影をなくした男』でドイツロマン派の詩人だけれど、植物学者でもあって、世界一周旅行の航海の途上でサルパを研究。「1つの種が有性生殖と無性生殖の世代を庚午に繰り返す世代交代というものを、世界で初めて発見したことが種名の由来」だとのこと。

さて、なぜこれらの生き物は透明になったのか、については監修者の考察も載っているけれど、長くなるので興味のある方は本書で。そのかわりに、本書のなかに掲載されている『デミニギスの眼の秘密』(ブルース・ロビンソン&キム・レーゼンビクラー/MBARI=モントレー湾水族館研究所)の「デメニギス」を紹介している映像をYouTubeから。

「デメニギス(Macropinna microstoma) 」というのは、モントレー湾をはじめとする太平洋北部の亜寒帯海域の深海に生息している、頭頂部が透明の全長15センチほどの不思議な魚。
ちなみに一見ふたつの眼のように見えるのは眼ではなく鼻。ほんとうの眼は透明な頭部のなかにあるふたつの緑色の球だそうです。ますます不思議。この眼の秘密については、本書でぜひぞどうぞ。
http://www.youtube.com/watch?v=GwJjcrQLPrU