志村 ふくみ『伝書―しむらのいろ』

2013.4.4



■志村 ふくみ『伝書―しむらのいろ』(求龍堂/2013.3.21)。
■DVD『「色を奏で、いのちを紡ぐ」~染織家 志村ふくみ・洋子の世界~』
 (紀伊國屋書店/2011/01/29)

ゲーテは「色彩は光の行為である。行為(能動)であり、受苦(受動)である。」という。
そして、「もしこの眼が太陽でなかったならば、決して太陽を見ることはできないだろう」という。

「色」という言葉・漢字は、色即是空空即是色というように、この地上そのもののありようを意味している。
この地上世界は色の世界なのだ。色は光の行為、そして受苦である。
光はあえてみずからがこの地上に現生しその苦を受けとめ、色となった。
光の色、自然の色を地上にとどめるために、糸を染める。いわば色の秘儀である。
志村ふくみさんは、その秘儀に向かう。秘儀はたんに植物的なものではない。
色は植物からとりだすが、それを地上に定着させるためには鉱物を媒染剤として用いなければならない。
志村ふくみさんはいう。
「すべての色は自然のままでは生きられない。
色として存続する限りは媒染という受苦(いたみ)を受けるのである。
それはどこか人編の生きる姿に似ている。
自然の中の四大元素<地・水・火・風>と、植物、鉱物という存在によって私たちは無量の色を得ることができる。
それは天の恵みであり、私たちはそれを拝受する思いで、糸に染め、織るのである。」

志村ふくみさんの素晴らしいのは、
とても日本的な感性をもっている染色の技はもちろんだが、
その背景にゲーテやシュタイナーの営為がいのちのように紡がれているところだ。
宇宙のなかで色の受苦を通じて宇宙的な織物となってつむがれてゆく糸がイメージされる。
その志村ふくみさんの染色のエッセンスが『伝書―しむらのいろ』という本になっている。美しい。
少し前に出たDVDもあるので、ご紹介しておきたい。